仙水小屋-オーナーを信じて雲海の大展望へ
進むか、引くか。山登りで天候の良し悪しは行動を大きく左右する。朝4時に山小屋をスタートし、40分ほど歩くとあたりは明るくなり始める。しかし、天候は不順で、霧とも雨ともとれる水滴が体にまとわりついてくる。曇っためがね越しに、うす暗い山道から見た黒く分厚い雲は、これからも回復する気配をみじんも感じさせなかった。
▼南アルプス甲斐駒ケ岳に登るため、前日は仙丈ケ岳でご来光をあびた後、北沢峠から仙水小屋に入っていた。非難小屋にプレハブ2階建てを付け足したような、飾りっ気は一切なしの山小屋である。定員30人とあるが、20人が泊まると窮屈な小屋であった。ただ、山小屋にはめずらしくトイレは水洗で清潔、食事は格が違った。
▼登頂当日の朝食は3時半。登山者は今日の天気が気になる。一帯は携帯電話がまったく通じず天気予報を全く知らない。皆が食べ始めると、山歴50年というオーナーが天気を話し始めた。「今日の天気はパターンがあって、下界は雨、上にあがると晴れです。午後から雨になるので、頂上に行く人は早めに出たほうがいいでしょう。」
▼雨の中進むか、引くか。 仙水峠で、同伴者とずいぶん悩んだが進むことにした。最後はオーナーの経験を信じることにしたのである。駒津峰の分岐を少し過ぎたころから、あたりの景色が変わり始めた。4時間半をついやし、甲斐駒ケ岳の頂上は突き抜けるような青空の下、あたり一面雲海のど真ん中に立っているようだ。携帯に頼っていては絶対にくじけていただろう。そこでしかわからない情報の提供は、山小屋の原点を見る思いであった。

素朴な仙水小屋

真っ暗な仙水峠は霧雨の中

2時間半ほど濡れながら歩き、たどり着いた駒津峰分岐

しばらく歩いているうちに、辺りは明るくなってきた。甲斐駒ケ岳もはっきりと見える。

珊瑚のように白い花崗岩を踏みしめ頂上へ向かう

一面の雲海を見ながら至福の1枚
宿泊はともかく、食事とトイレは絶品だった。
山小屋のトイレはバイオ式が多いのだが、川の水を利用した水洗で、匂いは全くなかった。
夕食は4時半。屋外のテーブルにめいめい膳が配られた。
料理の味は申し分なく、今までの山小屋とは格が違った。