赤とんぼに想う
8月2日、谷川岳に登った。頂上には多くの人と共に、無数の赤とんぼが飛んでいた。秋の季語である昆虫を、夏真っ盛りにこれほど見ようとは想像していなかった。標高2千メートルの世界は、こんなにも麓と違うのかと改めて驚いた。
▼御嶽山噴火から一か月。行方不明者の捜索が10月16日打ち切られたという。ご家族と関係者にとっては断腸の思いであり察するに余りある。しかし、すでに初冠雪があり、雪崩の危険がある。麓にいるとわからないが、3千メートルの世界はふた月くらい季節が前倒しされていると考えて間違いない。
▼残念でならないが、ここでの捜索打切りで、不明者の発見はほぼ絶望だろう。目視で発見できないものは、一冬過ごしたあとではさらに難しくなる。かりに発見できたとしても、腐敗し白骨化すれば身元は判別できなくなり、歯形鑑定となる。登山を始めたきっかけが先輩の冬山遭難だった私は、そんな経緯をよく覚えている。
▼まだ発見されないご家族が、自衛隊のヘリコプターに乗って現場を飛んだという。ある新聞に、談話が掲載されていた。<上空から見て、捜索の大変さがわかった。「捜索してくれた方々への感謝の気持ちでいっぱいです」>思いやりと、誇りある日本人らしいコメントである。もし自分がその身になったとき、こんな言葉を言えるのだろうか。