白ワインをオーダーすると『ドン・ペリニヨン』が出て来るにちがいない。
「きゅうきゅうしゃ、きゅうきゅうしゃ、きゅうきゅうしゃ呼んで!」
ドンという鈍い音が聞こえ、見ると年配の男性が仰向けになって倒れている。息をしているか、心臓は動いているかわからない。脳溢血ならいびきをかくはずだ、このまま息絶えてしまうかもしれない、などと頭をよぎる。常連で元消防署長のKさんが救急隊員と電話している。音を鳴らさず救急車は到着した。
会社の忘年会は居酒屋で飲み放題であった。その流れで、二次会はおとなりのロシア料理の店に三人で乗り込んだ。ママとは高校時代の同級生である。一緒に飲んでたYも同級生。ソムリエでありフランスで二年の修行をしている。当然のごとくチョイスをお願いし、白ワインを半分ほどあけたその矢先であった。
5分ほどたっただろうか。男性は目を見開いた。頭を打って気絶していたようだ。救急隊員4人が尋問している。本人は大丈夫と言っているが、周りの者たちは気が気でない。病院へ行ったほうがいいのにと思いながらKさんへ目をやると、指でOKサインをだしている。経験から搬送は必要なしと判断したのだろう。結局隊員たちは帰っていき、店には安堵感が漂った。
あれほど飲んだのにすっかり酔は醒めてしまった。次回は白ワインをオーダーすると『ドン・ペリニヨン』が出て来るにちがいない。